西村賢太の私小説をよく読みます。
発表されてる作品が、1作品を除き私小説という作家です。
芥川賞を獲ってます。
ちょうど風俗に行こうとしたとき、受賞の電話を貰ったという逸話があります。
藤沢清造という作家に、異常なほど傾倒していて、本人に許可なく(死んでるから許可取れないけど。)没後弟子ということを自分で決めてしまっています。
能登の七尾のにある清造の菩提寺にある墓を譲り受けたり。
清造の墓の横に自分の墓を建てたり。
ちょっと執着がすごいですが、こんなに好きなものがあるって、とても羨ましいです。
清造にはまったきっかけが、自分の惨めな人生と、清造がいろいろと被るからというものらしいです。
芥川賞を獲り、女性にもてるようになった、今の西村先生は、もう惨めではないと思います。
その小説ですが、大きく分けて、以下のような傾向があります。
・若いころの惨めなエピソード
・秋恵もの
・清造がらみ
・芥川賞受賞後の最近のこと
私は、若いころの惨めだったころのエピソードを楽しく読んでます。
次に清造がらみの話。
秋恵ものは、ちょっとマンネリがあり、好きな話とそうでない話がありますね。
最近の話は、ちょっと文章の密度が薄くなって、マイルドな感じです。
読んでる中からレビューを。
苦役列車 ★★★★★
インターネットもスマートフォンも、ガラケーすら登場しない80年代の頃のお話です。
主人公は一人暮らしですが、家に電話すら引いてません。
今の人から見ると、いったいどうやって連絡とってるんだろう?って感じですね。
戦後直後とか、戦前でもないのに、中学しか出ていません。
高校に行かなかった特別な理由や、別にやりたいことがあったとかそういう描写はありません。
ちょっと想像できないですね。
当然、仕事といえば日雇いくらいしかないので、そこで働いている日常の場面から、お話がスタートします。
日雇いの仕事に通う主人公の日常が描かれています。
大事件が起こることもないです。
久々にできた職場での友人との付き合い、その友人とのちょっとしたすれ違いから生じる負の感情や、その友人の
彼女が不細工だったのを見て優越感に浸るところ。など、時代や生活環境は違うけど、誰にでもちょっと当てはまる
感情が描写されていると思います。
文体がもっさりというか、殊更詳細な部分もあったりで、色んなところが昭和っぽく古臭い感じがします。
読んでると、舞台が80年代なのかどうかも一瞬怪しくなるのですが、友人に、スタローンの「コブラ」という映画を観に行こうと
誘っている場面があるので、なんとか戻ってくることができました。
でも、全然とっつきにくいわけじゃなく、むしろその古臭さがたまらなくいいです。
主人公は昭和の文学青年みたいに古臭い話し方なのですが、友人やその他の人は現代の話し方をしていて、会話は成立して
いるのだけど、読んでると違和感があったりします。
まるで、主人公だけ、石ころ帽子をかぶらされて、ぽつんとしてる感じです。
それが、何だか微笑ましいというか、純真な感じもします。
無銭横町 ★★★★
風俗嬢に金をだまし取られたり、秋恵の頭をスリッパではたいてた時期に比べると、
だいぶ軽くなったなという感じです。
ハイライトがマイルドセブンになった感じです。
本のタイトルになってる無銭横丁だけは、昔の感じが戻った風でした。
初期のころの密度が濃くて改行が少ない文章がまた読みたいです。
でも、軽くなった分、読みやすくなった部分もあります。
主人公が、兎に角ネガティブで、田中英光に関することだけ前向きなので、アンバランスな人物になってます。
でも、人生でこれだけ楽しめるものを見つけることが出来たことは、幸せなことだし、うらやましくもあります。
この本では登場しないけど、のちに藤澤清造の本に出会い、小説家を目指すきっかけを得るのだから、どんな
楽しみもばかにできません。
形影相弔・歪んだ忌日 ★★★★
難しい漢字やら、言い回しやらに独特な感じはありますが、この文体が好きな人は一定数いて、はまってる人もいると思います。
昭和の文学青年みたいな古臭いセリフを吐く主人公に対して、同棲している女が、そのことを気にせず今風の口調で話しています。
主人公と女との、言い合いの喧嘩のときなど、その落差のせいで、主人公が時代錯誤な昭和初期の文学の人みたいなキャラクターっぽく見えてきて、
非常に滑稽で可笑しい。
時代に取り残された人みたいになっている。
確信犯で、そういうキャラ設定にしているのかどうかは分からないが、結果的に面白いのだから、成功していると思います。
短編6編が収録されています。
芥川賞受賞後の身辺の変化について書かれた話が印象的でした。
受賞後、音信不通の母親から突然手紙が届いて嫌な気分になった話や、自身が有名になったことで、清造忌に多数のマスコミや
文学かぶれがやってきてやりにくなったといった話。
受賞前やヤングの頃とは違う、別の感情、悩みが生まれてきたという感じです。
新しいステージに進んだのだろうと思いました。
棺に跨がる ★★★★
4編全て、同棲してた女性との痴話です。
描き割りなんて、全部似たような感じです。
女との冷え切った感情が、どうすればまた温もりを取り戻すのか、
自らの過ちを後悔しつつも、何をやっても振り向いてくれない女にプライドを気付つけられ、イラつきながらも、
彼女の機嫌を取る貫太の姿が、男の性をよく現してる。
男は、女に対して、未練たらたらに書かれてますが、身につまされる部分もあります。
だから、似たような話でも、とても面白いです。
短編4つですが、続き物のようです。
1,2,3と話が進むたびに、状況が悪化していきます。
蠕動で渉れ、汚泥の川を ★★★★
気になった方は、
やっぱり、芥川賞を獲った苦役列車から入るのがいいでしょう。
映画にもなったし。
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2017年9月17日日曜日
西村賢太の私小説のおススメ
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